問題解決研修を受けた直後は、誰もが「なるほど」と頷きます。ロジカルシンキング、イシューアナリシス、フレームワーク。説明を聞けば理解でき、演習でもそれなりの答えが出る。
それにもかかわらず、数週間後、現場ではほとんど使われていない――。
私は25年以上、コンサルティングの現場で人材育成に関わってきましたが、この光景を何度も見てきました。戦略コンサルティングファームでの社内研修、クライアント企業向けの問題解決研修、そのいずれでも共通して起きる現象です。本記事では、なぜ問題解決スキル研修が「分かった気」で終わってしまうのか、その構造的な理由を整理します。
問題解決研修がうまくいかないのは「よくある話」ではない
多くの企業が、問題解決スキルの重要性を理解しています。実際、新入社員研修や若手・中堅向け研修の定番メニューとして、ロジカルシンキングや問題解決手法が組み込まれています。
それでも、「研修後に業務の質が明確に上がった」と自信を持って言える企業は多くありません。
これは受講者の能力や意欲の問題ではなく、研修設計そのものが「知識理解」をゴールにしてしまっていることに原因があります。
実際、研修直後に提出されるアウトプットを見ると「理解している」ことは分かります。しかし、数か月後の会議資料や議論の質を見ると、ほとんど変わっていない――そんなケースを何度も目にしてきました。
なぜ座学では問題解決スキルが定着しないのか
座学中心の研修では、「理解できたかどうか」が成果指標になりがちです。フレームワークや手法は頭では理解できるため、その場では強い納得感が生まれます。
しかし、現場に戻ると次のような壁に直面します。
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自分の業務をどう切り取ればよいか分からない
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そもそも「何が問題なのか」を定義できない
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正解が見えない状況で、手法をどう当てはめればよいか判断できない
結果として、多くの人は慣れ親しんだやり方に戻ってしまいます。
「分かる」ことと「できる」ことの間には、想像以上に大きな溝があります。
「分かる」と「できる」の間にある3つの壁
問題解決スキルが実務で使われない背景には、主に3つの壁があります。
1. 課題設定の壁
研修で扱う課題は、多くの場合「答えやすいお題」です。一方、実務の課題は曖昧で、制約も多く、正解がありません。このギャップが、応用を難しくします。
2. 文脈の壁
業界特性、組織文化、意思決定者の価値観によって、同じロジックでも通用するかどうかは変わります。座学では、こうした文脈を十分に扱うことができません。
3. フィードバックの壁
自分の思考や構造化が「どこでズレているのか」を具体的に指摘される機会がほとんどありません。
コンサルティングの現場では、同じスライドに対して「なぜこの切り口なのか」「この構造で何を判断させたいのか」といった問いが日常的に投げられます。この「問い返される経験」がないままでは、問題解決スキルはなかなか磨かれません。
実務で使える問題解決スキルに必要な条件
問題解決スキルを実務レベルまで引き上げるためには、少なくとも次の3点が必要です。
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実際の業務課題を扱うこと
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同じ型で考える反復の機会を持つこと
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個別に具体的なフィードバックを受けること
これはスポーツや楽器の習得と同じです。理論や型を理解しただけでは上達せず、試行錯誤と修正を繰り返す中で、初めて「使えるスキル」になります。
AI時代に、この問題はさらに深刻になる
生成AIの普及により、情報収集や整理、資料作成は劇的に効率化されました。その結果、「それっぽく整理されたアウトプット」を作ること自体は、誰でもできるようになっています。

一方で、
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課題設定は適切か
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判断に耐える構造になっているか
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実行につながる提案になっているか
といった点は、AIが代行できません。
コンサルタントの世界でも、AIによって資料作成のスピードは上がりましたが、「この資料で結局何を決めるのか」「次に誰が何をやるのか」が曖昧な提案は、以前にも増して厳しく見られるようになっています。これはクライアント企業の現場でも同じことが起きています。
まとめ:問題解決スキルは「理解」ではなく「訓練」で身につく
問題解決スキルは知識ではありません。一度理解すれば終わり、というものでもありません。
実課題に向き合い、試行錯誤し、フィードバックを受けながら磨かれていく――問題解決スキルとは、本質的に「訓練によって身につく実践スキル」です。
AIが進化する時代だからこそ、「考えたつもり」では通用しません。問題解決スキルの質そのものが、組織の成果を左右する時代に入っています。
※ AI時代における問題解決スキルの全体像については、別の記事で整理しています。


